全日本エンデューロ選手権 Rd.1 広島大会「コンマ1秒を争う接近戦を制し、田中教世が初優勝」
全日本エンデューロ選手権が、定番の広島テージャスランチで開幕。朝は0度まで下がる厳しい寒さが時折顔を見せるも、昼には半袖がちょうどいいくらいのエンデューロ日和に。この2年、雨に見舞われた開幕戦だったが、今年は前日土曜の朝まで降った雨が少し残った程度。序盤少しスリッパリーだった路面も、急速にベストコンディションへ向かっていった。
昨シーズンは馬場亮太が初のフルシーズン参戦、これに呼応するように常勝のチャンピオン候補であった釘村忠は自分を厳しい状況へ追い込むため、あえて2スト200のアンダーパワーマシンをチョイス。激しい釘村の追走を振り切る形で馬場がチャンピオンを決めた年だった。そして今年、釘村は満を持して、最も成績を望める2スト300cc、Beta RR2T300をチョイス。逆に馬場はアンダーパワーのYZ125Xを選んでいる。馬場はあくまでこれをディスアドバンテージとはせず、小回りの効く有力なマシンだとコメント。二人のマシン選択がどう結果に反映されるのか、ライバル関係の二人がどういうドラマを作っていくのか、そういった観点で今年のトップ争いは見所がある。
また、2021年チャンピオンである飯塚翼を筆頭に、若手グループもマシンチェンジのシーズンとなった。飯塚は乗り慣れたシェルコから、CRF250Rへスイッチ。VORTEXなどで武装したエンデューロスペシャルを駆る。保坂修一はGASGAS 2ストのEC250から4ストEC350Fへ。またIA2年目の挑戦になる酢崎友哉はカワサキからヤマハYZ250Xへチェンジ。各々、思い思いのニューマシンへまたがることになった。
IAクラス シーソーゲームのバランスはいつ崩れるのか……田中 VS 釘村の行方
日本のエンデューロにおける戦い方は、レース進行に合わせていかにタイムを詰めていけるかにかかっている。朝露により滑りやすくなった路面のコンディション回復や、ライダー自身がタイムを出せるラインを次々に発見していくことで、通常トップランカーのタイムはテストごとに短縮されていく。この広島も、まさにタイムの削り合いだった。
今回のテストは5分程度のエンデューロ要素が多いテスト1、そして2分程度のスプリント要素が多いテスト2の2本。わかりやすくテスト1をエンデューロテスト、テスト2をクロステストと呼ぶとすると、トップ3の構図は以下のとおりである。エンデューロテストで2秒ほど他よりタイムが良い田中教世、クロステストで2秒ほど速いタイムを出せる釘村忠、そして田中と釘村の間に馬場亮太。田中と釘村は、序盤からシーソーゲームを続けており、馬場が若干遅れるという展開だった。
田中のエンデューロテスト1周目は4分56秒99だが、5周目には4分45秒34まで詰められた。釘村のクロステスト1周目は2分17秒91で、5周目は2分9秒46。両名は勝つためにラインを隅々まで探し、毎週再構築を試みる。ターニングポイントは6周目だった。釘村が2秒ほどあった田中との差を縮めて0.76秒差へ。釘村はここぞとばかりにサスペンションを硬めに再セッティング、2秒ほど速い田中のエンデューロテストを挽回にかかった。Betaチーム監督もトップチームを分析し「序盤のスピードが乗るセクションの区間タイム、後半のモトクロスコース部分の区間タイムは変わらないから、テージャス山(と呼ばれる林間セクション)で差がついている」と釘村に伝達。対する田中のクロステストの苦手なところも、分析を進めていた。しかし、釘村はこの勝負の6周目、エンデューロテストの序盤のコーナーで失速。「ごちゃついてしまって、そのあとのリズムを取り戻すのが難しかったですね……。いま思えばこれが勝敗の分け目かもしれないです」と語る。この周回、釘村は4分46秒台で5周目と変わらなかったのだが、みごと最終周7周目は4分44秒台へ入れている。つまりこの6周目をミスらなければ、2秒ほどの総合タイム短縮ができたことになる。
最終周を終えた田中は、釘村に2.21秒差で勝利。田中は「ようやく勝てました。ずっと忠が後ろでプレッシャーをかけてくるので、とても苦しかったですよ! 今年のCRF250RXはモディファイしてもらったこともあって、すごく走ってくれたことも勝てた要因かもしれません」とエンデューロ初優勝を噛みしめた。田中はこれまで幾度も全日本エンデューロに挑戦しながらも、なかなか優勝の結果には結びつかず辛酸をなめてきたのだが、この2023年でようやく努力を実らせた形。
釘村は「マシンを乗り換えて、去年より早めにシフトアップをしてトルクをうまく使う走り方に変えるとうまくタイムも縮まることがよくわかりました。それでも教世さんは速くて……。でも、今日はこれぞオンタイムエンデューロという感じですごく楽しかったですね!」とコメント。
馬場は冷静沈着に「序盤が勝負でしたね。少し路面が濡れていたので、あまりつっこめずにいたり、ラインを組み立てられずにいたのですが、そういう部分を早めに決めてタイムをもっと早めに詰めることができれば勝てたかもしれません。エンデューロは自分が納得できる走りができることが大事だと思っていて、焦りとかそういうものはありませんが、自分の走りができなかった悔しさはありますね」と分析する。
IB 最終周が決め手。森、0.7秒差を守り切る
毎年、トップライダーたちはIAへ昇格するため、残留したIBクラスと新規の若手組の戦いになるIBクラス。今大会は残留組の森慎太郎と星野利康の一騎打ちとなった印象だ。序盤、1周目こそ池田幸治に譲るものの2周目から森と星野が順位をいれかえながらタイムを削り合う。
だが後半になるにつれ、森がそのリードを少しずつ拡大。しっかり数秒の差をつけたせいなのか、最終ラップのクロステストは気を抜いてしまった模様。森のタイムはIBで6番手となり、2番手星野は0.7秒差まで追いつくという僅差のフィニッシュ。森は「今年は自分のフォームを見なおしたのですが、これがはまった形です。サスペンションなどもアップグレードして、いい方向に働いたかもしれません。最後は気を抜きすぎましたが、勝てて良かった」とのこと。
ウィメンズクラスは、保坂明日那と、和田綾子の一騎打ちで攻めの姿勢を崩さなかった保坂が勝利。保坂は「いつも広島は雨で勝負するというよりは、走りきることに専念していたのですが、今年は晴れてくれたので、だいぶちゃんと戦うことができました。楽しかったです!」とのこと。