JEC Rd.1 2025開幕戦広島は、昨年を上回る激マディ。王者馬場に若手が迫る

雪がちらつく寒の戻りに、全日本エンデューロ選手権(JEC)開幕戦が広島県テージャスランチで開催。昨年は梅雨時期のため酷い雨に見舞われたこともあって、前代未聞のマディコンディションで完走率55%を記録しており、今年こそドライコンディションが望まれていた。が、その思いも虚しく今年も前日から時間雨量3mmほどの強い雨が降り続いた。

2024シーズンから全日本エンデューロ選手権は運営体制が変わり、JECプロモーションからグリズリーへと事業譲渡された。昨年の間、グリズリー代表の釘村忠は選手とプロモーションの2足のわらじを履いていたが、今年からレース運営に専念することとなった。釘村体制の新しい案として、これまでの初心者向け承認クラスが、エンジョイクラスとして生まれ変わることになり、よりわかりやすく、また丁寧にエントリー層を迎え入れる施策が取り入れられた。具体的には、承認クラスを含む全員が同じ時間帯にレースを走っていた去年までとは異なり、午前にエンジョイクラスとNBクラス、午後にIA・IB・NAクラスが走ることでレベルに応じたルート設定ができるようになり、さらに周遅れが発生しにくいタイムスケジュールを組むことができるようになった。これをうけて今年の総エントリー数は昨年から59台増の170台を記録(ただし、昨年の広島大会は承認クラス未開催)、パドックも大いに賑わった。

エンジョイクラスは、ゼッケンも主催側で用意

IAクラス 3年連続王者の馬場亮太に土をつけるのは誰か

昨年は馬場亮太・釘村忠・渡辺学・田中教世とモトクロスの元トップコンテンダーが名を連ねていたIAクラスだが、今年は釘村がレース運営に専念し、また渡辺学がフル参戦を見送ったことで、馬場、田中の2名にトップ争いが絞られたように思われた。チャンピオン馬場は、昨年ハイパワーだが扱いの難しい450ccでの参戦だったことでつけいる隙があったものの、今年はYZ250FXにスイッチし、盤石の構え。他のIAライダーにとって苦しい一年となることが予想されていた。

若手で期待がかかるのは、前年度ランキング4位の保坂修一。昨年は扱いやすいGASGAS EC250Fで善戦していたところ、今季はGASGAS MC300とスパルタンな2スト300ccモトクロッサーをチョイスしてきた。また、関西の大型オフロードショップビバーク大阪の社長に就任したことでプライベートも順風満帆な榎田諒介にもトップレベルを脅かすスプリンターとして期待したいところだ。加えて、昨年の休場から復帰を遂げた若干20歳の酢崎友哉は「しっかり乗り込んできたし、今年から乗るシェルコの4スト300も調子がいい」と息を巻く。

しかし問題は広島のコンディションだ。重くまとわりつく粘土質で赤土ベースの路面は、午前中にNB・エンジョイクラスの走行によりしっかり耕されている。タイミングよく(悪く?)雨があがってしまったこともコンディション悪化に拍車をかけた。実はマディでは雨が降り続けた方がまだ走りやすく、乾きはじめの重土コンディションこそが最悪なのだ。最高峰クラスのためのタフすぎるフィールドが、時間と共に醸成されていった。泥がついて車重が増えるのを嫌って下見ラップなし、1周目からタイムアタックに集中する彼らIAクラスの中でやはりトップに立ったのは、馬場亮太。今大会最速ラップをマークして早速後続を引き離しかかる。ただ、馬場を含むほとんどのIAライダーは、今回のオンタイムがかなり厳しい設定であることにこのとき気づいていなかったようだ。パドックに戻るとほとんど時間が余ってないことに驚いたIA達は、ヘルメットを脱ぐ暇も無くオンタイムを死守するため奔走した。馬場もそれは同じで「タイムや順位を確認する暇はなかったし、毎周戻ってくこれないかもって思うほどでした。実際、序盤で思い切りドハマリして、まわりのライダーも時間がないので助けてくれないし、みんなに『あ、亮太おわったな』って思われてたはず(笑)」と苦戦を語る。その周はルートもテスト並みにプッシュして、なんとかオンタイムに間に合わせたとのことだ。

3周目には、テスト内でどうにも越えられない渋滞が発生してしまったのだが、ここを保坂がクリーンにクリアしてスーパーラップをたたき出し、一躍トップへ浮上。しかしその保坂も途中でガソリンが足りないことに気づき、補給のために遅着1分を余儀なくされてしまう。保坂の不運はさらに続き、このスーパーラップの周は渋滞のため無効の判断が下されてしまう。それを知った保坂は張り詰めていたテンションを保てなくなってしまい、順位を後退。代わりに馬場のトップを許さず、気を吐いたのは酢崎であった。この日、馬場が6個のテストでトップタイムを記録したのに対して、酢崎は3つのトップタイムを奪取。馬場から合計タイムで31秒遅れをとったものの、3位田中に1分の差をつけて2位でフィニッシュし、4年目にして初表彰台、自己最高位を獲得した。厳しいコンディションではあったがそこはさすがのIAクラス、全27台中17台が完走してみせた。しかし、そのうちオンタイムを維持できたのはわずか8台だった。

馬場亮太
「3周目がカットになったと聞き、順位はわかりませんが、とにかく生きて帰ってくることだけを考えていました。調子は悪くなかったです。前日に鈴木健二さんがレブに当てるとバイクが安定するとXの映像でアドバイスしていたのを見て、ちょっと意識してみたらよかったですね。今年はバイクは振り回せる250ccなので、乗りやすいですし、サスも固めにしています。多少荒い走りでも問題ないように、エンデューロサスのたわみ感を気にしなくても良いぐらいに固めています。世界レベルの走りはできませんが、見てる人が楽しめるような走りをしたいです」

酢崎友哉

「手応えはありました。走っている時に、他のライダーを見ても自分の方が速いと思える瞬間がありました。今年から乗っているシェルコの300SEFは、マディに強いバイクだと思います。300ccですが450ccに近いパワーがあり、軽さは250ccと同じくらいですね。今日は3周目にトラブルがあり、もうだめかと思いましたが、カットになったので助かりました。そこからは落ち着いて走れました。しっかり乗り込んできて、トレーニングもして、準備万端だったし、結果も出たことでモチベーションが上がっていますね。もっと練習やトレーニングを頑張りたい」

田中教世

「自分がどのくらいの順位にいるのか全く分からずに走っていましたね。3、4位ぐらいかな? とりあえず完走して上位に入ろうと思って、諦めずに頑張りました。全く他の人の走りを気にすることもできなかったですよ。とにかく無事に帰ってくることだけを考えていました。マディだったので何とも言えないですが、スリッパリーなコースだと450ccは少し不利かもしれません。重たいですし、パワーで滑ってしまうので。次はそこを改善したいですね」

IBクラス・NAクラス 昨年NAを制した延原由祐が圧勝、たった5名のフィニッシャー

昨年も非常に苦しいマディで19台中11台の完走だったIBクラス。さらに輪をかけて最悪のマディになった今年は、31台中わずか5台が完走。しかもオンタイムを維持できたのは一人もいなかったというエンデューロ史に残るサバイバル戦となった。そんな中でも泥の海を自由自在に泳ぎ回ってみせたのは、北海道出身の延原である。今年、1つでもIA馬場のテストタイムを上回りたいと狙っていたいう延原は、IBクラスでほとんどのテストをトップタイムで文句なしの優勝を手にしている。

ここ広島のマディはとかく特殊で、地元勢の手練れが走り方を熟知していることでも知られている。IBの2位に立ったのは、昨年の広島もNAクラスで優勝した尾張展央。終盤には延原からトップタイムを1つ奪う活躍を見せた。レース中、一度2分の遅着をしてしまったことをきっかけにオンタイムをコントロール、把握することができなくなってしまい、結果的に6分のペナルティを受けている。3位に入ったのは、JEC黎明期にIAだった助野憲一。その頃から難しいレースでの走破力に定評があり、かつてここテージャスランチで開催されていたハードエンデューロサバイバルIN広島の出走経験も生きた模様。

NAクラスはIBよりさらに苦しく、26名中完走は4名。こちらもオンタイムで回って来れたライダーは不在というサバイバル戦だった。地元広島の大田垣良一、樽谷朋佳がトップ争いを繰り広げるも、最終的にペナルティで順位がひっくり返って樽谷が優勝をもぎ取った。

延原由祐

「去年も雨だったし、今年もマディなんじゃないかと思って北海道で雪の上で練習してきました。今年はIBで勝ちたいというのもあるのですが、IAクラスでどのくらい食い込めるかもしっかり考えていきたいと思っています」

尾張展央

「5位までに入れば、まあ、いいかなと思ってたんですが、地元のコースだし、雨なので。テージャスランチくらいしかこの順位はとれないんじゃないですかね。まずは次戦福島には行こうと思っています。まぁ、満足しています」

助野憲一

「今年はISDEに再チャレンジすることを目標に頑張っています。レースの後半になって、ここテージャスランチの雨の走り方を思い出して調子が出てきました。深めの轍が続く長い直線をスタンディングで走るといいんです」

樽谷朋佳

「色々あって、もう帰ってこれるかも分からないレースだったんですけど、とりあえず去年のリベンジができて良かったです。次戦に向けていいスタートが切れたんで、このまま頑張っていきます」

NBクラス・ウィメンズクラス

まだ重土も出てきていない午前中に開催されたNBクラス・ウィメンズクラスは、午後のクラスに比べて完走率も高かった。NBクラスはクロスカントリーでも活躍している若手の鈴木心が全テストでトップタイムをマークして圧勝。また、ウィメンズクラスはハードエンデューロライダーで海外遠征もしているホープ、木下夏芽がこれまた全テストでトップタイムを記録。NBクラスでも3位表彰台を獲得している。

鈴木心

「初めてだったんで、ドキドキだったんですけど、すごく面白かったですね。なんか自分との戦いが面白かったです。普段はいつもJNCCとか出てて、IAの大神智樹さんに教えて貰いながら走っています。マディにビビってたので、もうちょっとアクセルを開けれるように頑張ります」

木下夏芽

「タイムアタック最初の周でここはテストだから頑張ろうと思って走ってたんですけど、3周目ぐらいからもう雨だし、何かどこがテストでどこがルートか分からんような感じになっちゃいましたね。でも1回もこけることなく終わったのが良かったです」

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