全日本エンデューロ選手権 Rd.3 富山コスモスポーツランド2Daysエンデューロ Day2「16本のテストを走ってタイム差0.43! 釘村忠が馬場亮太を抑えて優勝」
全日本エンデューロ選手権第3戦のDay2が、2023年5月28日に富山県コスモスポーツランドで開催された。今大会は実際に全日本エンデューロ選手権に出場しているライダーから集めたアンケートを元にコース設定を行い、難易度の高いルートと2つのテストが設けられた。Day1は釘村忠が今シーズン初勝利をあげており、Day2で馬場亮太の巻き返しがあるか注目が集まった。
荒れてゆくエンデューロテストでタイムを詰める難しさ
Day1に引き続き天候は晴れ。朝は曇天で強風が吹き、少し暑さが和らぐかと思われたが、レースが始まる頃には風も弱まり太陽が顔を出した。コースはDay1と全く同じためサイティングラップはなく、1周目から計測が行われた。
ルートにはDay1に引き続きIA専用ルート「インディージョーンズの森」が設定された。短いながらもテクニカルなロックセクションで、IAライダーたちはじわじわと体力を奪われていった。
レースはDay1をマシントラブルでリタイヤした榎田諒介がスタートダッシュ。2周連続4つのテストで釘村、馬場を抑えてベストラップを記録した。ところが榎田は3周目のエンデューロテストのフィニッシュ直前で転倒。そこからペースを崩してしまった。
また、Day1で3位に入った保坂修一は順調にラップを重ね、榎田、飯塚翼と3番手争いを展開していたが3周目にチェーントラブルでリタイヤ。
馬場は1周目のショートテストでジャンプの後にコーナーをオーバーランしてしまい、いきなり3秒ほどロスしてしまった。それでも中盤から持ち直し、ラスト3周は6つのテスト全てでベストラップを獲得。釘村を最後まで追い詰め続けた。
Day1の良いイメージを残したままDay2に突入できた釘村は、榎田のスタートダッシュに驚きつつも冷静だった。じわじわとタイムを詰めていき、4周目には得意のエンデューロテストでベストラップを獲得した。最終的には昨年を超える馬場との0.1秒を競うバトルを制し、釘村が0.43秒差でDay2を優勝した。
今大会のキモは、明らかにエンデューロテストだった。モトクロスコースを使ったショートテストでは榎田や飯塚も釘村、馬場に匹敵するタイムが出ているものの、エンデューロテストで苦戦していた。ともにモトクロッサー(榎田はCRF450R、飯塚はCRF250R)というのもあるが、変化する路面コンディションへの対応やライン取りの巧みさで、釘村と馬場が秀でているのだろう。レース中にあまりタイムを縮めることができなかった榎田、飯塚に対して釘村、馬場は少ないながらも着実にタイムを縮めていた。例えば馬場は1周目のエンデューロテストのタイムが3分53秒32だったのに対しラストラップには3分51秒38と約2秒縮めることに成功している。
もう一つ面白いのは、このDay1で一番多くベストラップを獲ったのは馬場で、全16本のテストのうち9つでベストラップを記録している。次に多いのが榎田で5つ、釘村は2つしかなかった。それでも合計タイムでは釘村が優っており、ミスなくコンスタントにタイムを出すことの大切さを痛感するリザルトであった。
釘村忠
「面白かったですね! コースもすごく面白かったですし、周回数も多くてすごく疲れました。今日は前半に榎田くんが復活してくれて、僕も亮太も離されてしまったのですが、チーム監督の門永さんがタイム差を教えてくれたので、走りに集中することができました。むしろ榎田くんの走りに刺激を受けて僕はスイッチが入りました。
テストではリアを滑らせないように集中して走りました。コーナー立ち上がってリアが滑ってしまうとクラッチを切ったりアクセルを戻したりしなければならず、それでコンマ秒ロスしてしまうんです。なので、そこをなるべく無くしてスムーズに立ち上がることを意識していました。あとはやっぱりライン取りですね。
昨日の疲れはありましたが、体も動いてましたし、調子はよかったです。最終周に入る前に0.9秒くらいリードしていたのですが、僕はあまり集中しすぎるとダメなので、集中しつつも少しリラックスして、スタートするようにしていました。今日は本当に亮太ともコースともバイクともしっかり向き合えたと思います。去年はここで1秒以内の差で亮太に負けてしまったのですが、今日は0.43秒差で勝つことができました。やっと亮太の本気スイッチを入れることができたと思います。次が怖いですね。去年は200ccで勉強の年で、今年はなにがなんでもチャンピオンを獲りたいので、少しホッとしています。
あと今年から選手会の会長に就任し、皆さんの声をこの大会に反映してもらったのですが、レース後に選手の皆さんの感想を聞いていたら本当に楽しそうに満足してもらえていて、苦労が報われた気持ちです。素晴らしいコースを作ってくれたWRパワーレーシングの皆さんに感謝したいです」
表彰台では感極まって涙を見せた釘村。その胸中は勝利の喜びよりも大会成功による達成感が大きかったという。
馬場亮太
「榎田さんが速いのは分かっていたのですが、ショートテストだけでなくエンデューロテストでも速いのに驚きました。僕は昨日釘村さんに負けていて、最終戦の日高2Daysも行けない予定なので、Day2は最初から攻めてやろう、と意気込んでいたら1周目1発目のテストでオーバーランしてしまって……。さらに2周目のエンデューロテストでも転んでしまってなかなか歯車が噛み合いませんでした。少し気持ちが前のめりになっていたのだと思います。
なので途中から人のタイムを気にすることをやめて、自分のタイムだけを見て走っていました。実は昨日レースが終わった後にもう一度エンデューロテストを下見して、一箇所だけ釘村さんが走ってると思われるラインを見つけて、それはすごく良かったんです。でもあとはほとんど変えずにリラックスしてミスなく走ることを心がけました。後2周というところでタイム差を確認したら釘村さんに3秒差くらいで負けていたんです。で、2日間の良いところを全部まとめるつもりで1周走ってきて2秒差まで詰めて、最後の1周のエンデューロテストでは自分の最速タイムも更新したのですが、あと0.43秒及びませんでした。
去年は僕が序盤で少しリードを築いて、釘村さんが後半に向けて攻めてタイムを縮めていって、結果的にギリギリ僕が勝っていてもベストタイムは釘村さんというレースが続いていたんです。でも今回は2日間ずっと釘村さんに負けていたエンデューロテストで最後の最後に勝つことができたので、よかったです」
榎田諒介
「久しぶりのJECでしたが、ライバルたちと0.1秒を競って、考えながらタイムを詰めていくのは楽しいですね。Day2は最初2周分4つのテストでベストラップを出すことができて調子が良かったです。でも僕は後半にタイムが伸び悩むのに対し、釘村さんと亮太は後半に向けてタイムを縮めてくるのがわかっていたので、前半で出来るだけリードを築いておきたいと思っていました。
3周目のエンデューロテストの最後のところで先にフィニッシュした釘村さんが僕の走りを見ていたので、良いタイムを出してやろうと頑張ったら転んでしまい、そこからはうまくリズムに乗ることができず、崩れてしまいました。
今回からマシンをCRF450Rに変えたのですが、これが思いのほか自分に合っていて、重さもあまり気にならずに戦うことができました。コースは思ったよりもストレート区間が短くて、ハイスピードになりすぎず、頑張って走るよりもいかにスムーズに走るかが重要なレイアウトになっていて、それがうまいこと自分にハマりました。課題は後半の体力とライン取りですね。
次戦以降も出来るだけ出場したいのですが、遠方の大会が多いので、仕事の都合がつけばまた参戦したいと思います」
Day1に続き高橋、加藤、大西が完勝
IB、NA、NBクラスはDay1に引き続き高橋吟、加藤浩介、大西健太郎が圧倒的なタイムで優勝した。
高橋はアグレッシブかつIAクラスでも5位相当のハイペースで大きなミスなく周回を重ね、14個全てのテストでベストラップを記録し、優勝。逆に2位争いは激化しており、森慎太郎と星野利康が好勝負を展開した。森が1周目のショートテストで出遅れたこともあり、前半は星野が順調に2番手をキープしていた。星野はショートテスト、森はエンデューロテストを得意とし、後半に森が2番手に浮上。約6秒差で森が準優勝となった。4位には2st125ccで戦う高校生、青木琥珀が入った。
高橋吟
「昨日も今日も暑さに苦しめられましたが、楽しいレースでした。実はDay1の最初のテストでコースの杭に右手首をぶつけてしまって、2日間痛みを堪えて走っていました。テストの中でも4回くらい転んでしまって、まだまだ詰められるところがあるな、と。前のライダーに追いついてしまうこともあったのですが、前に人がいると『追いかけよう』と思って自然とペースが上がるので、結果的には良いタイムが出たりしました。次戦の九州は行けないのですが、日高は出ますので、IA昇格を目指して頑張ります」
NAクラスは加藤がJNCC芸北でエンジンを焼きつかせてしまい、YZ125を持ち込んでいた。排気量に劣るマシンで戦う難しさを痛感しつつもベストラップを記録し続け、結果1テストを除いてベストラップ。Day1に続きクラス優勝を飾った。
加藤浩介
「いつも4ストロークのマシンに乗っているので、2ストローク125ccのマシンで速く走るのが一番難しかったですね。クラッチもギアもアクセルも大忙しで、車両も軽いからフロントのアンダーも出ちゃうし……。でもIBにもIAにも125ccで良い走りをしているライダーがいるので、その2人のタイムを意識しながら走ってみましたが、厳しかったですね。タイヤもDay1から交換してないし、路面も荒れているので、その中で昨日のベストタイムを更新できれば、と思ったのですが、1.5秒くらい届きませんでした」
NBクラス優勝の大西はオンタイムエンデューロ初参戦ながら、元モトクロスIAのスピードを活かした走りで他を圧倒。それでもDay1には5周目のエンデューロテストで2位の荻野正彦にベストラップを奪われ、オンタイムエンデューロの奥深さを感じた。
大西健太郎
「僕はオンタイムエンデューロは初めての参加でした。いつもはオープンエリアの中嶋さんの手伝いでレース運営をしているのですが、オンタイムエンデューロを走ったことがない人がお手伝いしているのはどうなのか、と思って参戦してみました。モトクロスの時はタイムを出すよりもライバルに勝つことに注力していたので、タイムを出すことの難しさと面白さがよくわかりました。他のライダーとの兼ね合いや路面など、毎周変わるのが面白かったですね。マシンの準備をしてくれた中嶋さんありがとうございました」
Wクラスにただ一人出場し、Day1は遅着ペナルティの積算によるリタイヤを喫していた田中亜実だったが、Day2は見事にオンタイム完走を果たした。
田中亜実
「これまでは承認クラスに参加していたのですが、初めて全日本クラスに出場しました。Day1は遅着してしまって完走できませんでしたが、レース後にチームの皆さんと一緒にルートの難しいヒルクライムを下見に行ってラインを教えてもらい、Day2はそのラインを使ったらオンタイムで完走することができました。エンデューロテストはウッズが多くて苦手なコースだったんですけど、昨日たくさん走ったので、今日はその反省を生かして走ることができて、タイムも10秒くらい縮めることができて楽しかったです。昨日はもう気持ちで負けてしまっていて、早く終わらないかな、と思いながら走っていたのですが、今日は本当に楽しくて、もう1周走りたいくらいでした」
また、今大会では釘村の呼びかけにより、トップライダーの釘村、馬場、飯塚がそれぞれにSNSでクラブチーム員を公募して、チーム員それぞれのクラス順位の合計で争うという企画が初めて試みられた。そこでは飯塚率いる「のんびり頑張ろうレーシング(IA飯塚翼、NA加藤浩介、NB菅崎勇也)」が他のクラブチームを抑えて優勝。
飯塚翼
「自分は今回のんびり頑張りすぎて4位だったんですけど、加藤さんと菅崎さんのおかげでここに立つことができました。この企画を立案してくれた釘村さん、すごく楽しくて、レース前からチーム員とコミュニケーションを取ることができて、良かったと思います。ありがとうございました」
今大会はYSP富山の叶井廉氏が主催、WRパワーレーシングのメンバーがコース設定とスタッフを務めて開催された。その中には釘村がゴールドメダルを獲得した2019年のISDEポルトガルにクラブチームで参加し完走を果たした真田治の姿もあった。
真田治
「選手の皆さんにすごく満足していただけたようで、良かったです。今回は選手会の方からルートを少し刺激的にして欲しいという要望がありまして、出来るだけ体力を奪うようなルートを作ったんです。でも実は試走してみたら時間がかかりすぎてしまったので、少し短くしたんですけど、その短くした部分が比較的簡単で体を休められるような場所だったんですよ。だからより濃いルートができたと思います。僕がISDEに出場して苦しかった経験が、今回のルート作りに活かせたと思います。
ショートテストは他のスタッフがメインになって作ってくれたのですが、モトクロスコース主体で路面がイージーなだけに非常にタイム差が出にくいテストでした。そのため、スピードやテクニックをより出せるように考えて杭を打っていきました。エンデューロテストに関してはかなりヘビーでタイム差が出るレイアウトになったと思います。スピードが出るところ、抑えるところ、ライン取りの工夫ができるように考えて作りました」
次戦、全日本エンデューロ選手権第4戦は7月23日、熊本県御所オートランドにて開催される。